障害者支援施設で入所者を踏みつけるなど暴行か 元職員を逮捕

北海道 稚内市にある障害者支援施設で、おととし、入所者を引き倒したうえ体を踏みつけるなどの暴行を加えたとして施設の28歳の元職員が逮捕されました。捜査関係者によりますと、容疑を否認しているということです。

逮捕されたのは、稚内市の介護福祉士、若宮綾夏容疑者(28)です。

警察の調べによりますと、若宮容疑者は稚内市にある障害者支援施設「稚内はまなす学園」の職員をしていたおととし6月、入所者の47歳の女性を引き倒したうえ体を踏みつけたり、足をかけてわざと転倒させたりしたとして暴行の疑いが持たれています。

また、施設を運営する社会福祉法人によりますと、若宮容疑者は在職中の4年前とおととし、入所者への不適切な言動を理由に施設から厳重注意処分を受け、おととし10月に自主退職していました。

警察は先月、関係者から暴行についての情報提供を受け捜査を進めていたということで、施設内で虐待が常態化していなかったかなど、さらに詳しく調べることにしています。

捜査関係者によりますと、調べに対し容疑を否認しているということです。

容疑者は2回の厳重注意処分

障害者支援施設「稚内はまなす学園」を運営する稚内市の社会福祉法人「緑ヶ丘学園」によりますと、暴行の疑いで逮捕された元職員の若宮容疑者は2017年5月からおととし10月まで施設に勤務していたということです。

若宮容疑者は4年前、入所者に対する不適切な言動があったとして、施設から厳重注意の処分を受けていました。

その後、おととし6月にも同じような行為があったとして再び厳重注意処分を受け、その年の10月に自主退職したということです。

「緑ヶ丘学園」の貝森輝幸理事長はNHKの取材に対し「虐待の事案があったときに道に報告する義務があるが、施設として怠っていた。すでに退職した職員とはいえ、在職中に虐待行為があったことは誠に遺憾で、非常に申し訳なく思っている。警察の捜査に協力するとともに、二度とこのようなことがないように職員への指導を徹底したい」とコメントしています。NHK2月20日

告発した弁護士「虐待は病院全体に蔓延か」 東京・八王子市の精神科病院

東京・八王子市にある精神科病院で入院患者が看護師から暴行などの虐待を受けたとされる事件で、17日、事態を告発した弁護士が会見を開き「虐待は病院全体に蔓延(まんえん)しているのでは」と訴えました。

 提供された映像には、入院患者が暴行される様子や身体を拘束をされる様子が映っていました。

 相原弁護士は、会見で病院ではおととしの夏頃からおよそ10人の入院患者から虐待の相談を受けていたと明らかにしました。

 高幡門前法律事務所・告発人、相原啓介弁護士:「(患者が)病室に帰ったらまた、殴られます。どうしても連れて帰れないんだったらもう、ここにずっと一緒にいて下さい、とずっと泣きながらおっしゃっていた方がおりました。病院全体にこういったこと(虐待)が蔓延しているのではないかという疑いを私自身は強く持っているところです」

告発をきっかけに、この病院に勤務する看護師の50代の男が男性患者に暴行した疑いで逮捕されています。2023/02/17 テレビ朝news

患者を支援する弁護士が公開した東京・八王子市にある滝山病院内部の映像。長い布のようなもので手首などを縛られ、ベッドに拘束される様子が確認できます。暴行の痕でしょうか。顔から血を流している患者も。

 虐待を訴える患者の代理人・相原啓介弁護士:「やはり、数名の心無い職員による偶発的な虐待事件とは思えない。どちらかと言いますと、病院全体にこういうことが蔓延(まんえん)しているのではないかという疑いを私自身は強く思っているところです」

 滝山病院を巡っては、すでに看護師の50代の男が暴行の疑いで逮捕され、他にも3人に対し患者を殴るなどしたとして捜査が進められています。

 職員:「地震だ。…(患者の名前)地震だよ、すごい地震」

 さらに消灯時間になった後、声を出していた患者に近付く職員。

 職員:「うるせぇ。皆、寝てんだろ。静かにしろ」

 患者側の弁護士によりますと、10人ほどから「暴行を受け、退院したい」などと相談を受けたそうです。

 虐待を訴える患者の代理人・相原啓介弁護士:「明らかに身体拘束されていたことがはっきりしている人のカルテを調べても、その時には医師の指示が記されていない。当然、医師の指示があれば必ずカルテに記載することが法令上、義務付けられているので、実際は医師の指示がなかったのではないかと考えている」

弁護士らは指導・監督を行う東京都に徹底した調査を要請しました。

東京・八王子市の精神科病院で職員の男が患者に暴行を加えたとして逮捕されました。テレビ朝日が入手した映像には、職員が患者の顔を何度もたたくなど日常的な暴行をうかがわせる様子が映っていました。捜査を警察はどう進めていくのでしょうか。

(社会部・山木翔遥記者報告)
警視庁は今回逮捕された男について調べると同時に、ほかに虐待行為があったかなども含め病院の実態を調べていくとみられます。

捜査関係者などによりますと、この精神科病院では、逮捕された50代の看護師の男を含め4人の看護師らが、去年1月から4月にかけ、患者へ暴行した疑いがあると告発を受けています。

この4件の被害者はそれぞれ別の患者で、いずれもベッドで横になっていた患者に暴行した疑いがあるということです。

加害者と被害者がそれぞれ違うことなどから、こうした暴力行為が日常的に行われていた可能性もあるとみられています。

警視庁は病院関係者から話を聞くなど、詳しい実態を調べる方針です。

NHK:国連の人権理事会 日本の人権状況を審査 死刑廃止などを勧告

国連の人権理事会は、日本の人権状況についての審査を行い、死刑制度の廃止や、外国人を収容する施設での医療体制の改善などを求める勧告を含んだ報告書を採択しました。

すべての加盟国の人権状況を定期的に審査している国連人権理事会は、6年ぶりに日本についての審査を行い、3日、各国からの勧告を盛り込んだ報告書を採択しました。

報告書には、115の国と地域から表明された300の勧告が盛り込まれ、死刑制度の廃止や、国際的な基準に沿った独立した人権救済機関の設置を求める勧告が多く記載されました。

また、勧告では外国人を収容する出入国在留管理庁の施設における医療体制を改善することや、収容の長期化を回避するための措置をとることなども求めています。

さらに、とりわけ欧米の国からは、性的マイノリティーへの差別の解消や、同性婚を合法化すること、政治や経済分野における女性の参加を促進することなどを求める勧告が盛り込まれました。

これらの勧告に法的拘束力はありませんが、日本政府は、ことし6月に行われる理事会の通常会期までに、それぞれの勧告について受け入れるかどうかの見解を示す方針です。

報告書の採択後、ジュネーブ国際機関日本政府代表部の山崎和之大使は、「各国からの勧告を慎重に検討したい。日本は今後も対話と協力に基づき、国内外の人権状況の改善に積極的に貢献していく決意だ」と述べました。2023年2月4日

性同一性障害装い部下らに性的暴行、わいせつ行為 市指定の相談支援事業所代表の55歳逮捕

部下だった女性2人にマッサージと称して性的暴行やわいせつ行為をしたとして、大阪府警が、大阪府高石市の一般社団法人「あかり」の代表理事、渡辺和美容疑者(55)を準強制性交等や準強制わいせつの疑いで逮捕したことが捜査関係者への取材で明らかになった。渡辺容疑者は心と体の性が一致しない「性同一性障害」を装って女性に接近し、上司の立場を利用して性暴力を繰り返していた疑いがある。

法人は障害者らを受け入れる高石市指定の相談支援事業所「あおい相談室」を運営。この施設を利用していた障害者ら数人も被害を訴えており、府警は全容解明を進めている。

 捜査関係者によると、渡辺容疑者は障害者らに福祉サービスの提案や生活支援をする相談支援専門員として活動。法人の設立前も福祉業務を担う民間会社の代表を務め、女性たちはこの会社で働いていた。

 逮捕容疑は2021年4月、大阪府内のホテルに連れ出したアルバイトの30代女性に性的暴行をしたほか、翌5月には事務所で50代の女性の下半身を触るなどのわいせつ行為をしたとしている。いずれも容疑を否認しているという。

 渡辺容疑者は女性たちに「私の心は女性。女性に性的な感情はない」と偽ったうえで、「エステを習っていた。体のゆがみを治してあげる」と誘い出していたことが判明した。

わいせつ行為をされた50代女性は毎日新聞の取材に応じ、「言葉巧みにだまされ、弱みにつけ込まれた。卑劣で許せない」と憤った。【毎日新聞2月7日、郡悠介、洪玟香】

警視庁公安部のお粗末すぎる捜査…国賠訴訟を起こした大川原化工機幹部が語る「中国不正輸出冤罪事件」全真相

2020年3月、大川原化工機株式会社(本社・神奈川横浜市)の社長ら3人が「武器に転用できる機械を中国に違法輸出した」として警視庁に逮捕された。しかし、公判直前に起訴が取り消され、検察は事実上の「敗北」を認めた。違法な逮捕や長期勾留などによって損害を受けたとして、同社らは国家賠償請求を提訴。警視庁公安部による強引な捜査に迫る。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

総額約5億6000万円の損害賠償請求

 寒風が吹き荒ぶ1月27日、東京地裁の712号法廷(桃崎剛裁判長)で国家賠償請求審の口頭弁論が行われた。

 原告は、大川原化工機、同社の大川原正明社長(73)、島田順司元取締役(69)、故・相嶋静夫元顧問の妻・長男・二男。被告側には国と東京都の代理人の8名が並んでいた。

2021年9月に提訴された裁判は、ようやく双方の主張が出揃ったところだ。裁判長が求めた意見書の文書提出命令について、被告側は「2カ月いただきたい」と要求。しかし、裁判長は「それは長すぎる。2月の末までに」と強く催促し、紆余曲折の末、提出期限は2月24日となった。

原告代理人の高田剛弁護士は、今後、警視庁関係者や検察官、科学者などの証人を申請することを明らかにし、「裁判長があれだけ被告側に(意見書の)早期提出を促すのは珍しい。意欲的に進めたい意思の表れでは」と期待感を込めて話した。東京大学薬学部出身という異例の経歴を持つ高田弁護士は、どこか気鋭の芸術家のような風貌だ。

同社の元顧問で当時72歳だった相嶋さんは、長期勾留中に悪性の腫瘍が進行。勾留執行停止が認められ入院したものの、手術は間に合わずに亡くなった。そのため相嶋さんの遺族が大川原社長らとともに、東京都(警視庁)と国(検察庁)に対して総額約5億6000万円の損害賠償請求を起こした。

この日、大川原社長は、「今度の裁判長はちゃんと見てくれると思うけど、相嶋さんの一件にしても、本来は裁判官にも責任があるんですよ。検察の勾留延長を認めてきたのは裁判官なんですから。相嶋さんはどんなに無念だったか」と話した。

相嶋さんは、病状を心配した妻から「嘘でもいいから(罪状を)認めて出してもらってほしい」と弁護士を通じて伝えられても信念を曲げなかった。そして、検察が白旗を上げる約5カ月前の2021年2月7日に亡くなった。

「生物兵器に転用可」とされた輸出品

 警視庁公安部が捏造したこの「冤罪事件」について改めて説明する。

直接の容疑は外為法(外国為替及び外国貿易法)違反。武器に転用できる製品の輸出は禁止されている。ただし、「輸出には経済産業大臣の許可を得る必要がある」という条項があり、それに違反したという案件である。

問題とされたのは、大川原化工機の主力製品「噴霧乾燥機(スプレードライヤー)」。これが生物兵器の製造に転用できるとされた。

噴霧乾燥機は、ステンレス容器内に噴射した液体に高熱をかけて瞬間的に粉末にする装置だ。コーヒーやスープの粉末、医薬品、バッテリーの材料など、様々な用途に使われている。トップメーカーの大川原化工機はこの噴霧乾燥機で国内シェア約70%を誇り、海外にも輸出している。大川原製作所(静岡県吉田町)の子会社として大川原正明社長の父親・嘉平氏が1980年に創業し、静岡名産のお茶の葉の乾燥機を製造する機械メーカーとしてスタートした。

突然の家宅捜索

 2001年9月11日に米国で起きた「同時多発テロ」をきっかけに、国連は大量破壊兵器の規則を見直し、2017年には中国と米国の対立に押され外為法を改正。経済産業省は「経済安全保障」を強化してゆく。

 噴霧乾燥機が炭疽菌などをばら撒く生物兵器に転用される可能性があるとして、以下の3条件を満たすものを対象に規制を設けた。

(1)水分の蒸発量が一定の範囲であること
(2)粒子の直径の平均が一定以下であること
(3)定置した状態で内部の滅菌、または殺菌ができるもの 

このうち(3)の条件は、作業者と周囲の人の安全性が確保されている噴霧乾燥機を規制するためのものである。生物兵器の製造用に転用する際、装置の扉を閉めたままで滅菌や消毒(殺菌)ができるものでなければ、作業者の身体に危険が及ぶため使い物にならない。このため、扉を開けたり装置を移動したりせずに内部の滅菌・消毒(殺菌)ができるものに限り、規制の対象とされているのだ。

しかし、大川原化工機の製品は、扉を閉めたままで完全に滅菌・消毒(殺菌)することはできなかった。そもそも危険な粉末を扱うわけではないので、その必要もない。それでも大川原社長らは、規制が設けられる前から経産省と協議し、規制事項を確認し合ってきた。創業者である大川原社長の父は、戦後、シベリアに抑留された経験を持つ。そのため同社は「平和利用」をモットーとし、輸出先に対しては義務付けられてもいないのに武器に転用しない確約書まで取ってきたほどだ。

ところが――。2018年10月3日朝のことだった。大川原社長が横浜市の自宅から出勤しようとしたところ、数人の男が声をかけてきた。

「警視庁です。外為法違反で令状が出ているので家宅捜査させていただきます」

「なんの件ですか?」と訊いても「捜査の秘密なので言えません」と答えるだけ。捜査員たちは家の中に上がり込み、携帯電話や書類などを押収した。午前中に会社の家宅捜査も始まった。社員たちが呆然とする中、捜査員らはロッカーなどを手あたり次第に開け、書類やパソコンなど、業務用・個人用を問わずすべてを押収していった。

「噴霧乾燥機は売れば終わりではなく、メンテナンスのための設計図や仕様書などがあった。それも持っていかれ、修繕などの注文に応じられなくなりました」(大川原社長)

同年12月から社長らの聴取が始まる。捜査員が会社に来てくれるわけではなく、原宿署まで何度も通わされた。

「ざっと振り返ると、(聴取は)私が約40回、島田さんが約35回、相嶋さんが約20回ですよ」(大川原社長)

 大川原社長は「警視庁は『乾燥機だから熱風を内部に送り込み続ければ殺菌ができるはずだ』と主張した。私は『経産省令では、感染症を引き起こすような菌を完全に殺せるようなものとしている』と反論しました」と振り返る。

そして、延々と続く任意聴取が始まって約1年半後の20年3月11日、大川原社長、島田取締役、相嶋顧問は逮捕された。主力製品の噴霧乾燥機「RL-5」を16年にドイツ企業傘下の中国の子会社に輸出したという容疑である。別の製品を韓国に不正輸出したとして再逮捕もされた。自身らの逮捕について大川原社長は、「ある程度、予想していた」と言う。

「セイシン企業(東京の精密機器メーカー)がイランに製品を不正輸出して立件された事件の本を読んでいたので、警察は同じようにやってくるのではと感じていたんです」(大川原社長)

 3人の逮捕は新聞などで大きく報じられる。殺人事件や強盗などと違い、記者たちも「地取り(聞き込み)取材」で検証することができない。機械の専門的な内容でもあり、警視庁のレクチャーだけで書くような記事になる。

逮捕報道によって先代から築いてきた会社の信用は地に落ちてゆく。銀行から取引をストップされ、新規の取引もできず、年商30億円の売上は4割も落ち、経営が大ピンチに陥った。大川原社長は「ある意味、逮捕・勾留よりも報道がショックでした」と打ち明ける。

無理筋、わかっていた警視庁

当然、社員たちは噴霧乾燥機で完全な滅菌や殺菌ができないことを知り尽くしているが、それだけでは裁判に勝てない。外為法の規制対象ではないことを証明するために、静岡県富士宮市にある研究施設で必死に実験を重ねた。金に糸目をつけずに実験し、立件に都合の良いデータを出そうとする捜査側に対抗しなくてはならないのだ。寒い時にデータを取ると、「(乾燥機内の)温度が上がらなかった理由は外気温の影響だ」などとケチが付くので、真夏にも何度もデータを取った。警視庁側は「熱風ヒーターで容器すべての温度が100度になって菌が死滅するはずだ」としてきたが、熱風ヒーターだけではすべての部位が100度になどならない。計測器の取り付け口のあたりは40度にもならなかった。社員は普段から「触れる程度の温度」であることはわかっていた。

「全部が100度にならないとわかると、今度は『大腸菌は50度でも死ぬでしょ』とか言って死滅する温度条件を下げてきたんですよ」と大川原社長は振り返る。警視庁は自分たちの実験結果が芳しくないことに気づいていた。

 大川原社長らは「裁判で戦うしかない」と覚悟を決めた。東京地裁での初公判は、21年8月3日に始まろうとしていた。ところが、4日前の7月30日、高田弁護士に検察から起訴取り消しの連絡が入った。

東京地検は「起訴後に再捜査した結果、滅菌、殺菌に該当するかどうかについて疑義が生じた。法規制に該当することの立証が困難になった」などと説明したという。しかし、起訴取り消しは純粋に科学的な理由ではなさそうだ。

「経産省と警視庁とのやり取りの記録が公安部に残っていることが判明し、開示請求しました。検察官は渋っていましたが、裁判長が強く開示を求め、しぶしぶ承知しました。起訴取り消しを言ってきたのは、開示請求の期限日だったんです」(高田弁護士)

 経産省にとっても警視庁にとってもまずい記録が残っており、裁判になって法廷でこうしたものが表に出されることを恐れて起訴を取り消した可能性が高い。高田弁護士は「当初は規制の対象と認識していなかった経産省が、警視庁公安部に説得されて考えを変えてゆく様子が残っていたのでは」と見る。

大川原化工機の本社を訪れた昨年12月、大川原社長は社内を案内しながら製品について熱心に説明してくれた。機械が好きでたまらない様子がうかがえたが、自身が酷い目に遭ったことについては多くを語らない。それよりも案じていることがあった。

「現場のことも機械のこともよく知らないまま、こんな経済安保が大手を振っていれば、日本の産業は世界から立ち遅れてしまいますよ」(大川原社長)

公安警察の「宿痾」

 ところでなぜ、警視庁は無理筋を立件しようとしたのか。そこには普通の刑事警察とは異なる公安警察の「宿痾(しゅくあ)」がある。

公安警察には通常の社会治安とは別に、国防や国家体制の維持といった名目がある。冷戦時代に日本が「仮想敵国」とした筆頭は旧ソ連で、「ソ連と怪しげなことをしている」といったものに目を光らせていた。1980年代も、ナホトカと小樽の間で行われたヨットレースの主催者がソ連側に無線機のようなものをプレゼントしたなど、さして国防に大きな影響があるとも思えないようなものも、「ココム(対共産圏輸出統制委員会)違反」などを名目に検挙。それをマスコミに大々的に報じさせては自分たちの存在を世に誇示し、多額の予算を手にしてきた。

レポ船主(ソ連の国境警備隊員に物品や情報などの「貢物」をし、ソ連領海内でカニなどを取らせてもらい、巨利を得ていた根室市の漁民)を追いかけていた北海道時代の筆者(当時は通信社の記者)も、ある意味、公安関係者のお先棒を担いでいた。ところが、1991年にソ連が崩壊し、警察の公安部や外事課、公安調査庁は大いに困った。

 一般に警察組織では、苦労して殺人犯や泥棒を追っかける刑事より、警備畑や公安畑の要領のよい連中が出世する。とはいえ、アピールするためには事件が必要だ。

 2017年に外為法が改正され、規制が強化された。警視庁は改正法を適用する「第1号」を狙った。マスコミに「成果」を大きく報道してもらい、評価につなげたかったのだろう。中小企業ではあったが重要な製品のリーディングカンパニーである大川原化工機に目を付け、手柄を立てようとしたのが今回の警視庁公安部である。目的のためには中小企業の相談役が死のうが構わなかった。

要は日本でこれだけ恐ろしい冤罪を密かに進行させていたのだ。逮捕時、大川原化工機の「犯罪」を書き立てたマスコミは、全力でこの裁判を大きく報じて詫びるべきだ。

「日本という国を信じていたのに」

 さて、冒頭の裁判に戻ろう。

大川原社長と島田元取締役が釈放されたのは21年2月5日だった。この冤罪で最大の犠牲者は、やはり相嶋さんだ。20年3月に逮捕され、7月に東京拘置所に移されたが、高齢の上、既往症があり、身体は強靭ではなかった。9月25日に貧血で倒れ、拘置所で何度も輸血処置を受けた。黒色便も見られ、拘置所の医師は「消化管出血」と診断した。10月1日には内視鏡検査で胃の幽門(ゆうもん)部に大きな悪性腫瘍が見つかり、本人に告げられた。緊急入院が必要なことは誰の目にも明らかで、本人や弁護人らが外部の病院での医療を申し入れたが、認められなかった。

高田弁護士が求めた相嶋さんの勾留執行停止を東京地裁が認め、10月16日の午前8時から午後4時だけ外出が許可されたため、順天堂大学医院で診察を受けた。結果、進行性の胃がんであると判明。高田弁護士の求めで勾留執行停止が段階的に認められ、横浜市の病院に入院した。しかし手遅れで、相嶋さんには体力が残っておらず、手術もできなかった。翌21年2月7日に相嶋さんは他界した。

遺族は「輸血も必要なくらいの貧血があった9月25日に外部の病院に転院させるべきだったことは明らか。百歩譲って幽門部に潰瘍が見つかった10月1日、あるいは悪性腫瘍と判断された7日には転院させる義務があったはず」として拘置所所属の医師や拘置所長の非を訴えている。

昨年12月に横浜駅近くで取材した際、相嶋さんの長男はこう話してくれた。

「スリランカ人の女性(2021年、名古屋出入国在留管理局に収容中に亡くなったウィシュマ・サンダマリさん)の場合は、入管施設でまったく診断も受けられなかった中で亡くなった。父の場合は一応、拘置所での診断で結果は出ている。それなのに適切な処置を何もせず、死なせている。殺人と変わらない。日本は『逮捕=有罪』のように見られてしまう社会。無実という結果を知る前に刑事被告人のまま死んでしまった父親は、どんなに無念だったか。私はそれなりにも、この国の正義を信じていましたが、それが今は音を立てて崩れてしまいました」

 民事裁判の場で、公安当局が意図的に犯罪に仕立てた冤罪事件の真相 が明かされなくてはならないが、ひとつ筆者には懸念があった。

「森友学園問題」で公文書改竄を強要されたため自殺した財務省職員の赤木俊夫さんの妻が、損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。この裁判で国側は、1億円余の損害賠償金を払って「認諾」(相手の主張を全面的に認めて裁判を終結させる)してしまい、真相を闇に葬った。賠償金は税金なので、被告の佐川宣寿元財務省理財局長は痛くも痒くもない。

高田弁護士に「認諾されてしまう可能性はないですか?」と聞いてみた。「損害賠償金も巨額だし、それはないでしょう。全面的に争おうとしているし、認諾すれば自分たちの非を完全に認めてしまうことになりますから」との返答だった。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部2023年02月06日