防衛大いじめ 元学生逆転勝訴 国に268万円賠償命令 福岡高裁判決

防衛大学校(神奈川県横須賀市)で上級生らに暴行や嫌がらせを受けたとして、福岡県内に住む元学生の20代男性が、防衛大を設置する国に約2300万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9日、福岡高裁であった。増田稔裁判長は、元学生の請求を棄却した1審・福岡地裁判決(2019年10月)を変更し、国に約268万円の支払いを命じた。

原告側弁護士によると、防衛大でのいじめで国の安全配慮義務違反を認めた判決は全国初とみられる。

男性は1、2年生だった13~14年、上級生が下級生を指導する、防衛大で慣習の「学生間指導」の名目で上級生らから殴る蹴るなどの暴行を受けたり、下腹部にアルコールをかけられ体毛を燃やされたりした。男性は「重度のストレス障害」などと診断され、15年3月に退校した。

1審判決は、学生間指導を「教官が適切な指導をしない限り暴力行為などの危険性が内在していた」と指摘。一方で、上級生らの各行為は一連のいじめではなく、危険は抽象的で教官は予見することは困難だったと判断した。

これに対し、控訴審判決は、男性の在学当時、防衛大は学生間指導で暴力があり得るという認識を持ちながらも、アンケートをするなど実態把握を怠っていたと問題視。そのうえで教官に対して「暴力を受けた可能性があるとの認識で対応すべきだった」とし、体毛を燃やしたり、朝起こさなかったことを理由に殴ったりした学生3人の行為は、加害行為前の学生の行動などを踏まえれば教官は予見が可能だったと指摘した。

増田裁判長は、防衛大に対しても「暴力などを防止するため、教官がどのように指導すべきか大学内での検討も不十分だった」と批判。国の安全配慮義務違反と男性の休学、退校との因果関係を認めた。男性の損害額としては、医療費などから算出。一方、幹部自衛官に任官していればもらえたと見込める給料などは認めなかった。

防衛大は「判決を重く受け止める。内容を慎重に検討し、関係機関と十分に調整の上、適切に対応する」とのコメントを出した。

男性が上級生ら8人に慰謝料などを求めた訴訟は、19年2月に福岡地裁が7人に計95万円の支払いを命じた判決が確定している。【宗岡敬介】

◇千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)の話

防衛大は幹部自衛官を養成する組織で、災害派遣や国際貢献などさまざまな活躍が期待されるが、安心して学べる場でなければ学生は集まらない。判決を重く受け止め、組織として変わらなければならない。

◇防衛大いじめ訴訟を巡る主な経過

2013年4月 防衛大に入校。14年6月ごろまで、上級生らから殴られたり、体毛に火を付けられたりする暴行や嫌がらせを受ける

2014年8月 上級生ら8人を傷害と強要の疑いで横浜地検に刑事告訴。その後、学生は防衛大を休学

2015年3月 横浜地検が上級生ら3人を暴行罪で略式起訴し、横浜簡裁が1人に罰金20万円、2人に罰金10万円の略式命令を出した。学生は防衛大を退校

2016年2月 防衛大が男子学生12人に停学など、指導教官ら10人に訓戒などの処分

2016年3月 国と上級生ら8人を福岡地裁に提訴

2018年10月 地裁が国と上級生らの審理を分離

2019年2月 地裁が上級生ら7人に賠償命令

2019年10月 地裁が国への損害賠償請求を棄却。判決を不服として元学生側が控訴

2020年12月 福岡高裁が国に賠償命令

毎日新聞12月19日